A few million new items 暗記の話

 

SuperMemoというiPhoneアプリを使っている。単体ではけっこう使いにくいが、部屋の壁に単語を書くなど工夫して使い出したらメキメキと覚えられる単語数が増えて自分でも愕然とした(今まで死ぬほど苦労していた3年間は何だったのか)。

現在、770単語を覚えた段階である。2か月で770単語は高校時代を含めても自己新記録かもしれない。ペースとしては自分の限界近い気もするぐらい早い。

 

 

このアプリは、Spaced repetitionという暗記法に基づいている。「一度習った事項を次にいつ復習するかを管理することで『忘れていない期間』を効率よく伸ばす」ことを暗記の核心と捉えることで、「テストや試験の瞬間だけ忘れていない」ことを目指しているような暗記法と差別化を図っている。

 

 

しかしこのアプリ、日本だけでなく海外でも全然知られていないようだ。そんじょそこらの英会話塾より遥かに学習効果が高い、ほぼ間違いなく紙の英単語帳より効果が高い気がするのだが、どうして知られていないのだろうか。

 

その背景を知りたくなって、作者にインタビューをしているWiredの記事を読んだ。

 

 

記事には、どうしてSuperMemoを作ったのかとか、なぜ今は広告を大々的に出したりしていないのかなどについての記者と男性のやりとりが掲載されている。

 

SuperMemoを作った理由は、覚えても忘れてしまう英単語学習と専門知識学習を学生時代にどうにかしたいと思ったこと。これは納得。

 

世間に知られていない理由としては、以前は会社としてアプリを販売促進していたが自分自身の学習がおろそかになることにうんざりしてしまったため、もはや自分用のアプリケーションとしてしか興味を持っていない、という要因が大きそうだ。

これは予想外だった。男性のHPを見てみると、かなり変わった人生観の持ち主のようだ。携帯を持っていないというのは日本でもよく見かける価値観だが、ランダムな訪問者や旅を嫌うというのはかなり特殊だ。

 

SuperMemo自体の販売は続けているが、もともとのインターフェイスの悪さや海賊版の存在により、世間に広まるようなアプリにはなれていないということだろう。実際いろいろとバグが多いアプリなので納得できた。

 

疑問は解決されたものの、他にも、あまりにも僕の現実と離れた男性の日常生活が語られており、こんな人も居るのだなと軽く眺めるように見ていたのだが、

 

記者が所感を語る次の一節で、どうしても目を留めざるをえなかった。

 

By graphing the acquisition of knowledge in SuperMemo, he has realized that in a single lifetime one can acquire only a few million new items.

(上記記事、最終ページ)

 

a few million new items. 

数百万程度の暗記事項。

 

考えられないほど莫大な数だが、そうか、しかしそれでも

どんなにがんばっても人間はそれぐらいしか覚えることができないのか。

 

たとえアルゴリズムに生活を全て管理させたとしても、

70億人いるという全世界人口の顔と名前を一致させるようなことは、

もう人間には無理なのか。計算機の世界か。

 

不意に訪れる来訪者や電話を全て切り捨てて、

修行のような厳しい生活を続けて、

それでやっと忘れなくなった暗記事項は、それでも数百万に留まる。

 

ものすごく強い意味を今の情報社会に投げかけている。

 

博覧強記になるとその分野で楽しく過ごせる。

それは千とか万のオーダーである。

この分野は、それほど多くは持てない。

おそらく、順序が大切である。